医療コラム
最後の安部先生の医療コラム「受診前に飲んだ薬は持参してください!」
さくらクリニック医師の安部です。
診察室でお会いできた方には随時お伝えしておりましたが、2021年7月9日午前の診療をもちまして、さくらクリニックを退職します。
2、3年のつもりで来越したのが2016年4月、異国の病院のたった1人の日本人医師という身に余る重責でしたが、クリニックのスタッフや関係する方々、そして患者様のお力添えのおかげで、気が付けば在勤5年3ヶ月となって、さくらクリニックは私の医師生活で最も勤務期間の長い医療施設となりました。今般、こうして大過なく離任できることをうれしく思いつつも、離任日が近づくにつれて、一抹の寂しさを感じずにはいられません。
私の後任として、7月8日から黒川剛生(たけき)医師が着任します。引き続きさくらクリニックを宜しくお願い致します。
というわけでこれが私が書く最後のwebコラムになりますが、あまり感傷的にならず、医学の身近な話題で締めたいと思います。タイトルはズバリ、
【受診前に飲んだ薬は持参してください!】
何らかの薬を飲んだがなかなか治らないので受診する、とか、他病院で治療を受けたが改善しないので別の病院を受診する、というのは多くの方にご経験があると思います。薬であれば、ベトナム人スタッフが手配してくれた薬、薬局で相談して買った薬、他院を受診して処方された薬など、いろいろなパターンがあります。
一般に医師は、まず患者さんのお話を聞いて疑わしい病気を絞り込み、それに基づく検査を行って、診断を確定するというプロセスをとります。ただ、1回の診察で必ずしも診断を確定できるとは限らず、この病気の可能性が高いから、まずはこの薬を飲んでみてください、という対応になることもあります。ですので、「症状が改善しなかったらまた受診してください」と最後に付け加えることがあり、実際そういう発言を医師から聞いたことがある方も多いでしょう。
そんな時、患者さんが受診前に飲んでいた薬がわかれば、医師は「この薬は効かない→この病気ではない」とさらに診断を絞り込むことができる、つまり1回分の診察のプロセスが省けるわけです。
そんなヒントなしで最初からちゃんと診断しろよ、という厳しいご意見も聞こえてきそうです。しかし前にも書いたように、たとえば1ヶ月前から症状が続いているなど、経過が長期に亘っている場合、たった1回の診察で確定診断にたどり着けることはそう多くありません(ブラックジャックなら可能かもしれませんが)。また、医師が診断をする目的は、医師がヒントなしで診断して自分の能力をひけらかすためではなく、患者さん自身が少しでも早く健康な状態に戻るためです。お金も時間も節約できて早く楽になれる、と考えて頂ければ、医師に積極的に情報を提供することに意味があるのはお分かり頂けると思います。
そして薬の情報も、色や形だけでは薬名を特定できないことが多いです。薬名がわかっても、同じ名前で用量(mgなど)が異なる複数の製剤があります。そもそも薬が間違っているのか、薬は正しいが用量が足りないから効かなかったのかがわからないのです。できれば実際の薬をお持ち頂くか、他院処方の場合は処方箋をご持参頂けると助かります。
同様に、もし他院を受診していた場合は、その病院で行った検査結果もご持参頂きたく存じます。その理由は薬の場合と同じです。
なお、これは当クリニックやベトナムに限ったことではなく、どこの国でもどこの病院でも同じです。過去の医療行為について医師に情報提供することは、医師のためではなくご自身の健康のためですので、是非実践してみてください。
最後になりますが、皆様の益々のご健康とご多幸を祈念して、私の最後のwebコラムとさせていただきます。約5年の長きに亘り、本当にどうもありがとうございました。
安部 茂