医療コラム
『蚊にご注意!! (Watch out for mosquitoes!!)』
連休前に受診された患者様とのお話の中でも、連休に旅行に行くので早く治したいと当クリニックを受診されていた方が結構多かったように思います。そんな楽しい連休が終わって普段通りの生活が再開し、旅行の余韻も消えかかった頃、当クリニックにはこんな症状の患者さんがいらっしゃいました。ベトナムでは意外に身近な疾患なのですが、この患者様にいったい何が起こったのか、ちょっと考えてみてください。
<症例>
30代の日本人女性、連休は家族でニャチャンへ旅行した。ハノイに戻ってから約1週間後、発熱と頭痛、全身倦怠感があり当クリニックを受診。周囲に同様の症状の人はいない。ニャチャンではかなり蚊に刺されたとのこと。
<ヒント>
日本ではあまり馴染みのない疾患ですが、3年前の夏に、東京の代々木公園を中心に集団発生したことで一躍有名になりました。
<早速正解発表です>
診察の結果、この患者様は「デング熱」でした。ネット検索すると、デング熱の典型的症状として、発熱の他に「眼の奥の痛み」とか「全身の発疹」などと出ていますが、実際には頭痛、嘔気・嘔吐、筋肉痛、関節痛、咽頭痛など、普通の風邪と変わらない症状で発症することが多いのです。この患者様の場合、普通の風邪にしては体がきついとのことで当クリニックを受診されましたが、まさかデング熱だとは思っていなかったようです。
ただデング熱はこれだけでは終わりません。症状は全く軽くならず、発症翌日には吐き気と嘔吐が出現、さらに3日目には「発疹」が出現し、一気に全身に広がりました。
注:写真はイメージです
残念ながらデング熱には特効薬がないため、出現する症状に合わせた治療をすることになります。また重症化のチェックが必要であり、この患者様には連日クリニックを受診してもらい、採血と点滴を受けて頂きました。そんな患者様ご自身と、急に仕事と子守の両立を迫られたご主人の頑張りの甲斐あって、約1週間で症状軽快となりました。
さて、今回の患者様はおそらくニャチャンで感染したものと思われますが、ハノイでの感染例も多く、比較的身近な疾患であると言えます。だからといって蚊に刺されてすぐに慌てる必要はありません。そもそも全ての蚊がデング熱ウイルスを持っているわけではありませんし、50-80%の人は感染しても発症しないと言われています。また、インフルエンザ等とは違ってヒトからヒトへの直接の感染はないので、たとえば家庭内でも家族に近寄ってはいけないとか、マスクをしなければいけないということはありません。
よく感染しないための方法として「蚊に刺されないこと」という注意書きを見ますが、旅行者ならともかく長期滞在者にとってこれは非現実的でしょう。それよりも簡単な知識を持っておき、病院を受診すべきタイミングを知っておく方が得策かと思います。
というわけで、極めて大雑把にまとめてみます。
<デング熱>
(1)ハノイでも感染例は多く、他人事ではない。
(2)媒介する蚊の生態から、夜間より日中に刺された方が感染リスクが高い。
(3)潜伏期間(感染から発症までの期間)は1週間、忘れた頃にやってくる。
(4)症状は普通の風邪と区別がつかないことがある。ただ、普通の風邪と違う感じはある。
(5)ヒトからヒトへの感染はない。
(6)重症化すると入院が必要になる場合もある。
最後に、最近になってタイやシンガポールなどではワクチン接種が可能になりました(ベトナムでは未認可)。但し、3回接種が必要で完了までに1年かかることや、接種可能年齢が9歳から45歳までと制限があること等に注意が必要です。